菅さん提供
ヤブムラサキ (藪紫 落葉低木 シソ科)
花期5~6月 果期10~11月
Callicarpa japonica(カリカルパジャポニカ)とは日本の美しい果実と云う意味を持つムラサキシキブにつけられた学名で、美しい紫色の実をつけることから庭園木としても利用される広く知られた樹木です。同じようにCallicarpa mollisの学名を冠したヤブムラサキは今一つ人気も知名度もムラサキシキブに比べて低いようです。
通説では、美しい実を平安時代の才女、紫式部に例えたとされるムラサシキブに比べてヤブムラサキの名の由来は諸説紛々で、藪の中に多く見られるとか、枝や葉がよく茂って藪のようになるとか、枝先や萼に毛が多くて粗野な感じがするなどと言われていますが、花も実もムラサキシキブに勝るとも劣らない美しさがあるように感じます。藪蛇、藪医者など負のイメージがある藪の名を冠せられたせいで、ヤブムラサキはムラサキシキブよりも見下げられた目で見られているように思います。ムラサキシキブより実の数が少ないと解説したものもありますがそのようなことはなく、さらに言えば藪の中に多く見られるというのも眉唾もので、ムラサキシキブもヤブムラサキ同様に藪の中ではよく目にします。実の大きさもヤブムラサキの方がかなり大きめです。
学名にあるmollisは「軟毛のある」を意味していて、この樹木の特徴をよく表していますが、それはいかにも毛が生えているという粗野な感じでは全くなく、細かい羽毛に覆われているという表現がピッタリで、葉に触れてみるとふわふわとした感触が伝わってきて、ムラサキシキブのごわごわした葉とは対照的な印象です。萼にも軟毛が密生していて花期には羽毛のショールをまとったような可愛い花が観察できます。紫式部の花と実は葉の上に現れますが、ヤブムラサキでは葉の下に隠れるように付きます。
秋の山歩きでちょっとシャイなこの樹木に出会ったなら、葉の感触を楽しんで美しい紫の実を愛でてあげましょう。