菅さん提供
ネジキ (捩木 落葉小高木 ツツジ科)
花期5~6月 果期9~10月
春にはまだほど遠い二月に入ってすぐの落葉樹の林に分け入ってみました。足元からはサクサクと落ち葉を踏みしだく小気味よい音が聞こえてきます。木々の枝先に花を見ることはできませんが、寒さの中で春を待ち望んでいる樹木の表情は意外と多彩です。
冬芽もその一つです。冬芽は寒さや乾燥などから自身を守るため葉が変形した芽鱗で覆われたものを多く目にしますが、中にはクサギやムラサキシキブのように芽鱗を持たずに小さい葉が縮こまった形で冬を越す辛抱強い樹木もあります。
地中から出てきた筍のように幾重もの芽鱗で覆われた冬芽を持ったケヤキやコナラ、芽鱗に細かい毛が密生してふさふさの毛皮をまとったようなタムシバの冬芽などと芽鱗の形状も樹木ごとに特徴があります。
日本三大美芽といわれる中の一つのネジキの冬芽にも出会うことができました。一年枝に残る落葉痕のすぐ上に、赤い二つの芽鱗が合わさったとんがり帽子のような形の冬芽があります。この時期の冬芽の付いた一年枝は美しい赤褐色を呈していて、生け花にもつかわれるというのも納得です。
落葉痕とその中にある維管束痕の形状も樹木ごとに異なります。冬芽や落葉痕の観察には童心に帰って想像をたくましくすると色々なものに見えてきます。猿や羊などの動物の顔に見えるもの、土偶や妖怪に見えるもの、果ては宇宙人に見えるものまでも。ネジキの冬芽を眺めていると赤い帽子の小人さんに見えてきました。
ネジキの名は幹がねじれることから名づけられたものです。ある程度成長したネジキは表皮に縦長の溝が現れ、その溝がねじれて見えるので多くの木立の中にあっても他の樹木と容易に見分けることができます。
初夏には横に伸びた花序軸に、スズランに似た壷型の純白の花を一列に吊り下げます。花後の果実はケシ粒のような微小な種子を効率よく散布するため上向きになりますが、花序軸全体が幹と同じようにねじれて上向きになるのではなく、花軸の一つひとつが上向きになるようです。
一列に並んだ果実の様子が何かに似ていると思案していたところ、中学の教科書で見た空也上人が「南無阿弥陀仏」と念仏を唱えると、口から六体の阿弥陀仏が現れたという伝承を現した京都六波羅蜜寺に残る立像に思い至りました。
冬枯れの樹木でも目の付け所を変えてみると、この時期ならではの表情を見せてくれたり、空想の世界へと誘ってくれたり、思いがけない記憶がよみがえったりと、面白い発見や楽しみと出会うことができます。
冬芽
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