菅さん提供
イロハモミジ (以呂波紅葉 落葉高木 ムクロジ科)
花期4~5月 果期9~10月
ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれないに 水くくるとは
紅葉を代表し、秋を代表する木と言えばイロハモミジ。各地の紅葉情報が報じられるようになると秋の訪れを実感じます。
四季の移ろいを敏感に感じ取って和歌などに織り込んできた日本人には、春の桜と同様に紅葉の季節になると、わくわくそわそわする感情が働くように遺伝子に刻み込まれているようにも思います。
イロハモミジの名の由来は、5つまたは7つに分かれる葉のとんがりをイロハニホヘトと数えたことによるものというのが定説ですが、他にもこのように数えられる物がある中で、この木にだけイロハと名付けられたことは、この木が昔から人々に身近で印象的な存在だったという証でしょう。
紅葉を人々が愛でるようになったのは万葉の昔からと言われていますが、森羅万象この世の出来事はすべて神のなせる業と考えられていた古代にあっては、緑の葉が真っ赤に変容する様はただ美しいと感じるだけではなく、畏敬の念を抱きながら鑑賞していたものと思われます。
「神代の昔でさえも聞いたことがない。竜田川が一面に浮かべた紅葉葉で水を真っ赤に染め上げているとは」と、平安時代を代表する歌人の在原業平が竜田川を詠んだ冒頭の和歌も、神代も聞かずと言いつつも、息を呑むような光景を目の当たりにして、神様の所業にして粋な計らいをなさるものと詠嘆したのではないでしょうか。
和歌に詠まれている竜田川は紅葉の名所ですが、各地の名所と言われるところにも川の流れが多くあることは、水面に映える紅葉や、舞い落ちた紅葉葉が水と綾なす光景が古来、人々の心を捉えてきたことを物語っています。詩文や書画などの風雅に親しむことはほとんどない小生であっても、渓流の中の苔むした岩の上に舞い落ちた紅葉葉を目にすると、一幅の掛け軸を鑑賞しているような想いが得られます。
とかく紅葉の季節にしか話題に上らない感のあるイロハモミジですが、花の美しさや果実が色づく時の美しさに触れてみるのも山歩きの楽しみの一つです。
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