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今月の樹木 2022年2月 ハンノキ

 菅さん提供


ハンノキ (榛の木 落葉高木 カバノキ科) 

                花期113月 果期1011

里山の山麓から清らかな水が湧出(わきいで)、棚田が潤う時節にはタニシも見られる所にハンノキ林がありました。沼地や川岸に自生するこの樹木の根にはある種の菌が共生していることが知られていて、その菌の働きで窒素が効率よく取り込まれるため、湿地のような貧栄養下でも生育できると言われています。

 刈り取った稲の乾燥を天日に頼らざるを得なかった昔はハンノキの水に強い性質を活かして水田の周りに植え、それを稲架(はさ)の支えにして稲束(いなたば)を干すのに利用したところもあったようですが、農作業の機械化に伴いその姿は見られなくなってきているようです。
 この樹木の別の有用な使い方として、ワサビ田に植えられている光景を目にしたことがあります。ワサビ田の周りではなく、田の真ん中にほぼ等間隔で植えられているもので、その役割は夏場の強い日射しを嫌うワサビの生育を助けるためで、水に強く大きく枝葉を広げるハンノキはワサビの栽培には打って付けと言うわけです。逆に日差しが弱くなる冬場には落葉するので、これもワサビには好都合な点ですが、日除けの役割が果たせるほどの大きさに成長するまでに年数がかかるなどの問題のため、最近は簡便な寒冷紗に取って代わられてきているとのこと。

 水に強いだけではなく寒さにも強いと見え、開花の時期は葉を落とした真冬です。比較的暖かい所では11月辺りから咲き始め、当地では2月初旬には開花が見られ、より寒い地域でも3月ころには咲くと言われています。
 落葉期の花はよく目立ちますが、目に付くのは小さい雄花が寄り集まって尾状(びじょう)に垂れ下がった67cmほどの(ゆう)花序(かじょばかりです。雌花はどこにあるかと言うと、雄花序から少し離れた下部に暗紅紫色の小さな花序を数個付けています。果実は松ぼっくり状の球果で、花の季節になっても枝先に残っているのが見られます。
 雌花は目立たなくても風媒花なので目立つ必要はありません。当然蜜も出しません。それでもある生き物にとっては大事な
食餌(しょくじ)(ぼくであり産卵場所にもなっています。雄の翅は金属光沢のようにキラキラ輝く緑色をしていて見る角度で色が変化し、宝石のように美しい蝶と言われているミドリシジミがその生き物です。
 人にとっては役割を終えつつある樹木のようですが、自然界の中にあってはなくてはならない樹木の一つであることに疑いの余地はありません。






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