イブキジャコウソウ(伊吹麝香草 常緑小低木 シソ科)
花期6~8月 果期9~10月
イブキジャコウソウの分布を調べてみると、北海道から九州まで日本各地に見られるようで、日当たりの良い所なら岩場でも生育できることからイワジャコウソウとも言われます。どこにでもありそうですが比較的冷涼な環境を好む植物で高山植物扱いされることもあり、標高の低い妙見山の中腹の一角で見られるものは、元をただせば植栽の可能性が高いように思われます。
イブキジャコウソウの名の由来は、標高が1400m近い高山植物の宝庫と言われる伊吹山に多く自生することから名づけられたそうです。
名前に草と付けられているのはその見た目によるもので、樹高はせいぜい10cm前後で、葉の大きさは長さ5~10mm、幅3~6mmで程の大きさで、細い茎が地表を這う様子は正に草としか思えません。花も小さく、さし渡し5mmほどで、シソ科に多く見られる筒状になった花の先が上下に分かれて唇のような形に見える、いわゆる唇弁花と言われるものです。
イブキジャコウソウの名を聞いて、漢方に通じている方なら甘い香りの生薬のが頭に浮かぶのではないかと思いますが、イブキジャコウソウの枝葉には麝香に似た香りがあることも名の由来の一つになっているようです。爽やかな香りを楽しむには葉や茎を千切ることなく、まとまって生えている所を手のひらでなでるようにしてから手に着いた香りを嗅ぐようにします。
ちなみに、麝香は主に東アジアから南アジアにかけての国々に生息しているといわれるジャコウジカの雄の腹部にある分泌腺から得られる分泌物を乾燥した香料だそうで、高級な香水の原料にも使用されているようです。 料理やハーブティーに使われ、数百種もあるといわれるタイムの仲間もシソ科でイブキジャコウソウ属に分類されていて、イブキジャコウソウは唯一国内に自生するタイムということになります。
イブキジャコウソウは見た目に似ず、強健で乾燥にも強く、放任状態でも育つことからグランドカバーにも用いられるようです。増えすぎたらちょっと刈り取って料理などに使うのもよいかもしれません。
この丈夫なイブキジャコウソウでも鹿の食害には耐えられず、伊吹山でも他の貴重な植物と合わせて食害対策が施されている映像を最近目にしました。妙見山でも近年著しくその数が減ってきているのも鹿の食害によるものと思われます。