菅さん提供
クヌギ(橡・櫟・椚 落葉高木 ブナ科)
花期4~5月
果期9~10月
里山を代表する樹木と言えばクヌギを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。都会育ちの人でも遠足やハイキングなどで山に入り、ドングリをもてあそんだ人も多いように思います。
日本の森林面積は国土の70%近くを占めると言われ、電気やガスが普及する以前は薪や炭をはじめとして様々な恩恵を山から受けていました。「森は海の恋人」とも言われるように、森の落ち葉から産生される養分は日本周辺の豊かな海を育て、様々な産物をもたらしてくれてもいます。
縄文時代にはドングリを食用としていたことが伺える遺跡が見つかっていて、美しい緑色の光沢の糸が取れる野生の蚕のヤママユガはクヌギなどのブナ科が食草です。
炭が生産されるようになると萌芽力の旺盛なクヌギが重宝され、里山を代表する樹木になりました。その中でも兵庫県川西市北部の黒川地区の里山は日本一の里山と言われています。
この一帯で生産されるクヌギから作られた菊炭は断面が菊の花のように美しいことで高い評価を得ているという古書籍の記録に残る歴史性。菊炭が茶道で重用されてきた文化性。伐採時期が異なるエリアが織りなすパッチワーク状の景観性。人の背丈ほどの所で幹を伐って、先端から生じる萌芽枝を約8年ほどで伐採して炭にし、それを繰り返すうちに元の幹の部分が肥大した台場クヌギと呼ばれる樹形の特異性。クヌギの樹液に集まるカブトムシ、クワガタムシ、スズメバチ、オオムラサキなどたくさんの生き物の拠り所となる生態系の一部としての生物多様性などが日本一の里山と言われるゆえんですが、かつての里山の多くが現在は里山放置林となっている中で、黒川地区では今なお茶道文化を支える菊炭が生産されていることが里山の命脈を保っていることにつながっています。多くのボランティアの人が里山保全の活動を行っていることも特筆すべきことです。なお、黒川の奥瀧谷にある台場クヌギ林は、林業発展の歴史を示す景観が今に残る地として2014年に日本森林学会の林業遺産に登録されました。
菌床栽培の椎茸では味わえない豊かなうまみと香りが特徴的な原木栽培椎茸にはクヌギが多く使われます。
里山の森林は山崩れや洪水の防止、水源涵養、生物多様保全など重要な役割を担っています。炭を使ってのバーベキューを楽しむ機会があるときには、高級な菊炭に手が届かなくとも、原木椎茸を噛みしめながら里山の存在意義に思いをいたしてみてはいかがでしょう。
参考(ヤママユガの一生の動画)⇒ヤママユガの一生 | NHK for School
台場クヌギ林
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