菅さん提供
イヌツゲ(犬黄楊/犬柘植 常緑低木 雌雄異株 モチノキ科)
花期6~7月 果期10~12月
「こぎつねコンコンやまのなか」で始まる童謡の「こぎつね」に出てくる黄楊の櫛は、木櫛の中では最上級とされるもので、ホンツゲと呼ばれることもあるツゲ科のツゲで作られます。イヌツゲは名が似通っているためツゲの仲間と思われがちですがまったく別種の樹木です。
「イヌ」と名が付く植物はいくつもありますが、この場合のイヌは、人の役に立つ植物に姿かたちは似ているが、人の役には立たないまがい物的な意味で使われます。
イヌツゲも例外ではなく、葉の形やその大きさはツゲとそっくりです。ツゲに比べて成長が早く、材が緻密でないことから櫛のような細かい細工物に向かないことでイヌツゲと呼ばれるようになったものと思われます。
両者を見分けるには、ツゲが対生で葉を付けるのに対し、イヌツゲは互生に付くので、この点を観察すれば容易に見分けられます。
イヌツゲは樹林下の薄暗いところでも育つ陰樹で、このような樹木が増えてくると地表に光が届かなくなり、将来的には陰樹が優先する限られた樹種の林になって里山の生物多様性が損なわれてくることから、里山の整備の中ではヒサカキやソヨゴなどの陰樹と同じように真っ先に伐採される樹木でもあります。
ツゲに似ていたばかりに不名誉な名で呼ばれるようになったイヌツゲですが、役に立たない樹木かと言うとそのようなことはなく、刈り込みに強いため庭木や垣根によく利用されていて、公園などで見かける丸い形やらせん形、動物の形に刈り込まれた樹木はこのイヌツゲがほとんどのようです。
イヌツゲの白い花は他のモチノキ科の樹木と同様に花径は数ミリで、花の一つひとつを観賞するには小さすぎますが、樹木全体で見れば十分に楽しめる花です。
モチノキをはじめクロガネモチやウメモドキ、ソヨゴなどの多くのモチノキ科の樹木は赤い果実を付けるのに対し、イヌツゲは黒柴色の実を付けます。この実に観賞価値はないと言う人もいるようですが、なかなかど
うして、自然の中で艶やかな黒い実に出会えば、黒真珠を思わせるような美しさを持っていることに気づかされます。
実は多肉質のいわゆる液果で、つぶすとわずかに水分が出ますがほとんど無色に近く、歌にあるように、草の実をつぶしてお化粧をする子狐がこの実をつぶしてもお化粧はできず、イヌツゲは子狐にとっては役に立ちそうもありません。
なお、クロソヨゴの変種で赤い実を付けるアカミノイヌツゲが見られる所もあるようです。
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