菅さん提供
イヌザクラ (犬桜 落葉高木 バラ科)
花期4~5月 果期8月
8月の里山を散策すると、枝先に朱や赤に交じって黒柴色に熟した大きさ7mmほどの果実を付けたイヌザクラに出会うことがあります。
イヌザクラを見たことのない人でも植物にある程度詳しい人であれば、頭にイヌと付くことから花は観賞に価しない桜だろうという想像はされると思いますが、花はさておき、カラフルな果実が見られるこの時期にはイヌザクラと言う名は返上させたくなるほど美しい姿を見せてくれます。
ちなみに、犬と名の付く植物はいくつもありますが、名の由来に関しては動物の犬とは関係なく、否定の意味の「否」の音が「イヌ」に変化して犬の字が充てられたという説が有力なようで、人にとって有用なものに似てはいるが実際にはそうではないというものに用いられています。
イヌザクラはエドヒガンやソメイヨシノなどとは異なるウワミズザクラ属に分類され、花の付き方は長い花軸に穂状に付くため、瓶を洗う時のブラシによく例えられます。ウワミズザクラにそっくりの花ですが、花軸の基部に葉があればウワミズザクラ、葉がなければイヌザクラというように見分けるのは容易です。果実にもちょっとした違いがあり、基部に萼片が残っていないのがウワミズザクラで、枯れた雄しべが髭のようにくっついた萼片が残っていればイヌザクラということになります。
ウワミズザクラとイヌザクラは似たものどうしで、どちらであってもイヌザクラと呼んでもおかしくはないように思われますが、ウワミズザクラがウワミズザクラたり得たのは、古くにはこの材を削って上面に溝を掘り、占いに用いたと古事記にあるそうで、上溝桜と言われていたものがウワミズザクラになったという説があります。そこで考えてみたのが、今日ではイヌザクラは絶滅危惧種に指定されている県がいくつもあるように、当時も個体数が多く手に入りやすかった方がウワミズザクラとなり、個体数が少なく利用されなかった方がイヌザクラとなったというものです。古事記に記載されるほど当時の占いは重要な政であったと思われ、似ていても厳密に区別されていたのではないででしょうか。
花に視点を移せば、一つの花軸の花数はウワミズザクラの方が多く、イヌザクラの方は少なくスカスカで貧相に見えるところからイヌザクラとなったとも思えます。もう一つはウワミズザクラの蕾や若い果実を塩漬けにしたものは杏仁子と呼ばれて食用にされている所もありますが、イヌザクラは利用されていないようでそこも関係しているのではないかとも。
熟れた果実は美味しそうに見えても実際には苦くて食用にはなりません。念のため申し添えておきます。
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