ミヤマシキミ (深山樒 落葉低木 雌雄異株 ミカン科)
花期4~5月 果期12~2月
花と出合うことはほとんどない真冬には、歩くことに専念することが多い山歩きですが、それでもふと見上げた先の梢に、二つ三つと取り残されたように見えるヤマガキの朱色が目に入ると、思わずそこで足を止めてしまいます。
息が切れるような急坂ではそのようなゆとりもなく、ひたすら目的地を目指して歩を進めることになりますが、そんな中でも足下近くで赤いものが目に入れば歩みを止めることになってしまいます。そのような形で出会ったのがミヤマシキミでした。
木漏れ日が差すような樹林下に生え、腰の高さにも満たないほどの低木ですが、鮮やかな赤い実は、冬枯れの林床ではひと際鮮やかな存在感を放っています。
シキミの仲間で深い山で見られるのがミヤマシキミと言われるようになったのかと問われると、話が少しややこしくなってきます。シキミとミヤマシキが混在して見られる所もありますが、そもそもこの両者はまったく別種の植物で、葉の形や色、質感が似通っていることから似た名前になったもので、シキミはマツブサ科とされています。
中華料理に使われるスパイスの八角に似た果実を付けるシキミは全体が有毒で知られていますが、ミヤマシキミも葉や果実は有毒とされていて、そこのところも似通った点の一つです。
果実は直径が8~9㎜ほどで、ミカン科だけに葉にはミカンの香りがあるそうです。ミカンの名に惑わされて果実の味を確かめてみようと二つに割ってみたことがありましたが、ミカンのような果汁は無く、白い核が数個入っていました。恐るおそる舐めたその時の記憶ではミカンの味も香りもなかったように思いますが、良い子の皆さまは真似をなさいませんように。
正月飾りに使われる赤い果実の生るセンリョウやマンリョウなどと同様に、縁起木の庭木として利用されることもあるようです。センリョウやマンリョウに比べて果実が大きいことからオクリョウ(億両)と称されることもあるとのこと。
実の美しさもさることながら花の時期も見逃せません。直径1㎝ほどの花が木漏れ日を受けて寄り集まって咲いている様子は、濃い緑の葉と相まって毒のある植物とは思えない美しさを見せてくれます。