菅さん提供
シュロは昔から生活の中で色々な形で利用されてきました。
里山とのかかわりで言えば、山仕事などで使う背負子(しょいこ)には、腰や背中に接する部分に
シュロ縄を張り巡らせてクッションとしたものが古民具の中に残っています。
里山の山裾の田んぼや畑の周りには今でもシュロを目にすることができます。
そのようなことで今月はシュロを取り上げました。
シュロ(棕櫚 棕梠 常緑高木 ヤシ科) 花期5~6月 果期10~1月
ヤシと言えば大きな実をつけるココヤシの木をすぐ思い浮かべますが、近隣の街中や公園だけではなく、民家の庭先で見かけるヤシの木もあります。ヤシの木といってもピンとこない向きにはシュロと言えばどこかで見かけたという人は多いはず。ココヤシとは属は異なれど同じヤシ科の植物になり、寒さに強く東北地方でも見られるようです。
日本に古くからあるシュロはワジュロ(和棕櫚)とも呼ばれ、渡来時期は不明確ながら中国から伝わったとされるトウジュロ(唐棕櫚)と区別されることがあります。ワジュロの葉先が垂れ下がるのに対してトウジュロの葉先は垂れ下がらないのが明確な違いです。
幹周りは茶色の直径1mmにも満たないほどの無数の細く長い繊維が絡み合って一枚の織物のようになった
シュロ皮が筍の皮のような形で覆われ、それぞれの皮の上部はほぐれているので幹全体はもじゃもじゃした毛で包まれているように見えます。
この長く細い繊維はビニールやゴム、プラスチックといった便利なものがなかった時代には生活に密着した用具を作るには打ってつけの材料で、箒や縄、たわし、刷毛、敷物などに使われました。細く裂けたような形になる葉も草履類の表や籠にしたそうですが、田舎の生家には葉を加工した蝿叩きと皮を重ね合わせて造った蓑がありました。
葉には1mほどにもなる葉柄があり、その先に硬い葉が平べったく広がっているので蝿叩きにはもってこいの形です。蓑は軽くて水をはじく上に通気性もよく、藁など他の材料で作られた物に比べるとはるかに高機能だったようです。
蓑を着た父の姿が記憶の片隅におぼろげに残っていますが、江戸期の浮世絵師が活写した蓑を着た人が田植えをする情景が昭和の半ば頃までは見られたわけです。昔活用されていたものの名残と思われるシュロが、農村地帯で営々と引き継がれてきた田んぼや畑の脇に一本二本と植えられている光景を今でも目にすることがあります。
雌雄異株で雄株の花は大きなカズノコのようで美味しそうに見えますが苦くて食べられません。ところが未熟の花序は中国の一部では食べられているようです。ある種のヤシの新芽は食材として国内でも流通していますがそれに似た味わいなのでしょうか。
ヤシから造るお酒もあると聞きます。花序の先端を切って滴り出る樹液を集めれば自然発酵のお酒ができるとか。シュロでも同じようにお酒ができるのか試してみたいところですが、首尾よくできたとしても酒税法に触れてお縄を頂戴する羽目になるかも。
青黒色に熟す果実は食用にはなりませんが高血圧の予防薬になるそうです。真っすぐな幹は意外な所でも意外な形で使われています。お寺の鐘つき棒がそれで、硬すぎず柔らかすぎず、よく通る綺麗な音が鳴るので昔から多くのお寺で使われているようです。
0 件のコメント:
コメントを投稿