菅さん提供
ヤマグワ (山桑 落葉中高木 雌雄異株または同種 クワ科)
花期4月 果期6月
6月半ばのこと、山頂にあるお寺に続く山道を通りかかると、地面に黒いものがいくつも点々と落ちて
いるのに気づきました。時節柄、間近で見なくてもそれが桑の実であることはすぐわかりました。見上げ
るとヤマグワの枝のあちらこちらに赤い実や黒い実が鈴なりに生っています。
一つをつまんで口に入れると、子供のころに黒く熟して甘くなった桑の実をおやつ代わりに食べた昔懐
かしい味とともに、黒く染まった舌を兄弟姉妹で見せ合った記憶がよみがえってきました。
桑の葉は蚕蛾の幼虫の餌であり、幼虫が作る繭から生糸を採る養蚕業は、かつて日本の主要産業でしたが、今では世界遺産となった富岡製糸場で生糸の取り出しが行われていたことや、同じく世界遺産の岐阜県白川郷の合掌造りの家屋で蚕を飼っていたことなどが時々話題に上る程度で、蚕が桑の葉を食べている様子も、明治時代に養蚕業奨励を目的に皇居内で蚕の飼育が始められ、歴代の皇后に受け繋がれている。
蚕に桑の葉を与える御給桑と呼ばれる行事が映像で紹介される中で目にするくらいです。
夕焼け小焼けの赤とんぼの歌いだしで始まる童謡の「赤とんぼ」では、山の畑の桑の実を小篭に摘んだ
はまぼろしかとありますが、桑畑も本当にまぼろしとなってしまい、小学校の時に習った地図上の桑畑を
表す記号も今では廃止になっているようです。
ヤマグワの実はラズベリーやブラックベリーを思わせる色と形をしていて、雌しべの名残の長い花柱が
実が熟しても残っている様子はいかにも野性的な感じで、見ようによっては毛虫がぶら下がっているよう
に見えます。それに対して、主に畑で栽培されていたマグワは、実が熟すと花柱はほとんど残らず、大き
さも倍ほど大きくなります。
養蚕業が衰退した今日では、桑の木は忘れられた存在かというとさにあらず、実に含まれるビタミンや
ミネラルの豊富さから食品としての価値が見直されていて、マルベリーという名で苗やドライフルーツが
流通しています。
もっとも、昔の人は実はもちろんのこと、葉や枝、根に至るまで桑の効用を熟知していて、今でも漢方
薬として利用され、中でも葉を乾燥させた桑茶はよく知られています。
桑のお茶と言えば昔、蚕の糞をお茶にした虫糞茶なるものを映像で見たことがありますが、蚕も繭だけ
でなく、糞まで利用しつくされるとは思ってもみなかったことでしょうね。
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